ユダヤ古典文献の中で日本だけでなく世界中でも一番有名なのはヘブライ語聖書(いわゆる「旧約」聖書)でしょう。特に、最初のモーセ五書(狭義の「トーラー」)は毎週月曜日・木曜日・土曜日(=安息日)の朝にシナゴーグで朗唱されるため、ユダヤ世界では祈祷書の次に親しまれているものです。
当然のことながら、モーセ五書の注解は中世から現代まで山程あり、原文ヘブライ語の一字一句がおそらく可能な限りあらゆる側面から調べられ解説し尽くされているようにすら思われます。
こうした万巻の注釈すべてを知るだけでなく、目を通すことすら少なくとも私には不可能ですが、これまで触れる機会のあったユダヤ流聖書注解の中でも特に感銘と刺激を受け続けているのがハシディズム流聖書注解、より正確にはハバド派ハシディズム流聖書注解です。
今から約6年前にエルサレムで「偶然」触れて深く感動したハバド派ハシディズムの教えをその1年後から約3年間エルサレムの学校で体系的に学ぶまでは、自分が何を知らないでいたのかという自体知らないでいたことに気付いて愕然としたことを今でも覚えています。その聖書注解も自分の無知の無知を知らされることになったひとつです。
ハシディズムの教えはトーラーの内面性とも呼ばれ、ハバド派ハシディズム流聖書注解を特徴づけるのも、字面の意味だけからは分からない隠された意味です。特に人間心理についての本当に深い洞察に溢れ、単に知的好奇心を満足させてくれるだけでなく、人生の知恵として普段の生活、特に思考と行動とにまで肯定的な影響を与えてくれるようなものです。
残念ながら、「ハシディズム」というだけで先入観から勝手なレッテル貼りをして食わず嫌いの人がユダヤ世界においても本当に多いこともその後身をもって知りました。かくいう私自身そうした1人でした。
私がエルサレムでハバド派ハシディズムの教え、特にその心理学を習った先生たちの先生であり、現代を代表するハバド派ラビの1人でもある Rabbi Yitzchak Ginsburgh は、ハシディズムが説く知恵はユダヤ人にだけでなく非ユダヤ人にも広める機が熟したことを力説して、この使命を果たすように自分の弟子たちにも勧めています。私が日本に移り住んで始めることにしたこの「ユダヤ流人生の知恵」もこの呼びかけに答えたものでもあります。ただし、いわゆる布教ではありません。闇を光に変えるという試みの一種というだけです。
この試みのひとつとしてこの師によるモーセ五書注解を1月から毎週1回ご紹介していくことにしました。お申し込みを含む詳細は講座のウェブページをご覧ください。
最後に、この師ではなく、ハシディズムの創始者とされるバアル・シェム・トヴの聖書注解の例を改めて簡単にご紹介します。これは少し前にもご紹介したことがあります。創世記に出てくるノアの方舟と洪水の話はおそらく皆さんも知っているはずです。この話はどう理解されていますか。そしてこの話から何を学べると思いますか。
バアル・シェム・トヴは以下のように教えています。方舟を意味するヘブライ語の単語 תיבה には文字という意味もあります。人生で遭遇する挑戦という「洪水」も「文字」つまりトーラーの教えを学ぶことで乗り切っていくことができるという教えです。これがトーラーの内面性です。