2026-05-29

ハシディズムが教える人生の知恵 その1 2つの自分

2つの相対する方向・世界に同時に引かれるという経験は皆さんもお持ちでしょう。物質的なものから自分を切り離して、霊的なものに自分を委ねたいと願と、これとは逆に、霊的なものから自分を切り離して、物質的なものに自分を委ねたいという願いとが、同時に交錯するのです。例えば、自分を霊的に高めたいと思って、祈っている最中に限って、全く別世界の思考が割り込んできます。

他の多くのスピリチュアリティの教えと同じように、ハシディズムの教えでも、2つの自分というものを分けています。他の教えでは「幻想の自分」や「自我」と呼ばれているものはハシディズムの教えでは「動物的心」と、「本当の自分」や「魂」と呼ばれているものは「神的心」と呼ばれています。

両者はあるものの支配を巡って、常に戦いを続けています。このあるものとは肉体です。分かりやすい例えを使えば、人生とは肉体と自我という重しの助けを借りて魂が行う筋トレだと言うこともできます。

一部のスピリチュアリティの教えにあるように、自我をなくすという教えはハシディズムにはありませんし、そもそも自我はなくそうと思ってなくせるものではありません。それに、自我には肉体を維持するためには魂には果たせない大切な役割もあります。この代わりに、肉体を巡る支配権を自我に渡さないようにするのです。

ただ、自我の方もそうやすやすとこの支配権を魂に渡してはくれません。例えば、祈りの最中に限って雑念が邪魔してくるのは、自我が生き残りをかけて必死の抵抗をしているところなのです。したがって、これは祈りを通して魂による支配権を高める、あるいは維持するという試みが上手く行っている証拠です。

一生続く自我とのこの絶え間ない戦いに、魂は毎瞬毎瞬勝ち続ける必要があります。勝つための様々な方法は、効果はすぐ出るものの長続きしない「短くて長い道」と、効果は中々出てこないものの長続きする「長くて短い道」に大別できます。今後30回続くこの連載では、こうした様々な方法、あるいはその助けになることを毎回一口サイズでご紹介していきます。

PS: つながる

2026-05-21

ハシディズムが教える人生の知恵 はじめに

今回から「ハシディズムが教える人生の知恵」という連載を始めることにしました。今回を除くと28回、12月末まで、毎回日本の皆さんにも興味を持ってもらえるような人生で遭遇するテーマについて、これまた毎回共感してもらえるような内容を分かりやすい言葉でお伝えすることを目指します。

この教えの元にするのは「ハシディズムの書記律法」とも呼ばれる、ヘブライ語で書かれた「タニヤ」という古典的名著です。一部を見本として前回まで6回に分けて配信した、有名なハシディズムの寓話集の翻訳が終わったので、次にこの古典の翻訳を計画しています。

以下は、取り扱うテーマの一部です。

  • 自意識
  • 自己犠牲
  • 自由選択
  • 意志力
  • 喜び
  • 悲しみ
  • 隠された善
  • 肯定思考
  • 謙虚さ
  • 無条件の愛
  • 怒りの制御
  • 慈善行為

PS: つながる

2026-05-15

ブラツラヴのラビ・ナフマンの寓話 利口者と純真者の話 その6

話は展開し、二人はあちこち旅した末に、例の首相(つまり利口者の友人である純真者)が住む町にやって来ました。

その町には本当に奇跡を起こす人がいて、不思議な業を行うので、とても敬われていました。要人たちの間でも敬われ、有名でした。

利口者たちが町にやって来て、あちこち回り、その奇跡を起こす人の家の前に着くと、病人を乗せた馬車が何台も並んでいました。四十台か五十台はあったでしょう。利口者はそこに医者が住んでいると思い、自分も優れた医者なので知り合いになりたいと考えて、家に入ろうとしました。

「ここには誰が住んでいるのか。」と尋ねると、「奇跡を起こす人です。」と答えられました。すると彼は大笑いして言いました。「これは嘘で、大間違いだ。王についての間違いよりさらに馬鹿げている。友よ、この嘘の話、そして世界がどれほど間違って嘘をついているかを言わせてくれ。」と連れに言いました。

そうこうしているうちに、二人は腹を空かせ、まだ三、四グロシェン持っていることに気づきました。そこで、三、四グロシェンでも食べ物が買える炊き出し所に行き、食べ物を注文して出してもらいました。

二人は食べながら話をし、奇跡を起こす人の話を嘘だ、間違いだと言って笑いものにしました。それを聞いた炊き出し所の主は、奇跡を起こす人がそこではとても敬われていたので、ひどく腹を立てました。そして二人に言いました。「目の前のものを食べたら、ここから出ていけ。」

それから、奇跡を起こす人の息子がそこへやって来ました。それでも二人はその息子の前でまで父のことを笑いものにしていました。

息子の前で嘲るのを見て、炊き出し所の主人は二人を叱りつけ、しまいには激しく殴り、家から追い出しました。

二人は腹を立て、自分たちを殴った相手を訴えたいと考えました。そして自分たちの荷物を預かってもらっている宿屋の主人のところへ行き、どうすれば裁判に勝てるか相談しようとしました。

そこにやって来て、炊き出し所の主人にひどく殴られたことを話すと、主人は「なぜ殴られたのか。」と尋ねました。二人が「奇跡を起こす人の悪口を言った。」と答えると、主人は言いました。「確かに人を殴るのは正しくありません。けれど、奇跡を起こす人がここでは敬われているのに、その方を悪く言うのはよくないことでしたね。」

この人もあてにならないと分かると、二人は役人のところに行きました。その役人は異教徒でした。二人は殴られたことを話しました。なぜかと尋ねられ、奇跡を起こす人の悪口を言ったと答えました。すると役人は二人を激しく殴り、家から追い出しました。

それから二人は場所を転々としながら、少しずつ位の高い人のところへ行きました。そしてとうとう例の首相のもとにたどり着きました。

首相の邸宅の前には守衛たちが立っていました。会いたいという者があれば、そのことを伝え、首相は入るようにと命じました。

利口者が首相のもとに来ると、首相はそれが自分の旧友だとすぐに分かりました。しかし利口者の方は相手があまりにも立派になっていたので、彼だとは気づきませんでした。

首相は言いました。「私はこの純真さのおかげでここまで立派になりました。そちらは利口さのおかげでどうなりましたか。」

利口者は答えました。「あなたが私の友人の純真者だということはあとでお話しします。今はまず私が殴られたことを裁いてください。」

なぜかと尋ねられると、「奇跡を起こす人の悪口を言って、嘘で大詐欺だと言ったのです。」と答えました。

首相となった純真者は答えました。「あなたはまだ利口さをひけらかしているのですか。あなたはこう言っていましたね。『私の純真さにはあなたは届かない。だがあなたの利口さには私は届かない。』でも私はもうあなたの利口さに届いているのに、あなたはまだ私の純真さに届いていません。純真さに至るのはあなたには難しいようですね。」

そうは言っても、首相は友人の昔の立派さを知っていたので、彼に服を与えるよう命じ、さらに一緒に食事に招きました。

食事の席で二人は話を始めました。利口者が王なんて全くいないと主張しだすと、首相となった純真者は「私は自分の目で王を見ました。」と言って彼を叱りつけました。

利口者は笑って言いました。「それが王だったと分かるのか。彼を知っているのか。そしてその父や祖父までも王だったと知っているのか。彼が王だったとどうやって分かるのか。王だと言われて、嘘にだまされただけだろう。」

王の存在を否定され、純真者は激しく怒りました。そのとき、誰かがやって来て告げました。「悪魔があなた方に使いをよこしました。」純真者はすっかり怯え、妻のもとへ駆け戻り、「悪魔が自分を迎えに来た」ととても怖がりながら話しました。

妻に勧められて、奇跡を起こす人のもとへ使いをやると、奇跡を起こす人がやって来て、魔よけとお守りを授けてくれました。純真者はこれでもう全然怖くないと言いました。彼はこれを深く信じていました。

利口者と純真者がまた一緒に座っていると、利口者は尋ねました。「どうしてあんなに怖がったのか。」純真者は答えました。「悪魔が使いをよこしたからです。」利口者はそれを笑いものにして言いました。「悪魔なんていると信じているのか。」純真者は尋ねました。「もしそうでないなら、誰が私たちに使いをよこしたのですか。」利口者は答えました。「私に会いたかった私の兄弟にちがいない。ああやってだまして、使いをよこしたのだ。」純真者は尋ねました。「もしそうなら、どうやって守衛たちをみな抜けてきたのですか。」利口者は答えました。「賄賂を渡したにちがいない。守衛たちは見なかったと嘘をついて、だましたのだ。」

そうこうしているうちに、また誰かがやって来て、前と同じように「悪魔があなた方に使いをよこした。」と言いました。だが純真者は奇跡を起こす人のお守りのおかげで、もう怯えることも恐れることもありませんでした。彼は利口者に向かって「さて、どうしますか。」と言いました。

利口者は答えました。「私に腹を立てている兄弟がいて、私を怖がらせようとだましているのだ。」

利口者は立ち上がり、使いに尋ねました。「我々に使いをよこした者は、どんな容貌なのか。顔は。 髪の色は。」使いが答えると、利口者は言いました。「これは私の兄弟にそっくりだ。」

純真者が「一緒に行ってみれば。」と言うと、利口者は「ああ。ただし、私が苦しめられないように兵士を何人かつけてくれ。」と答えました。そこで純真者は警護をつけ、二人の利口者は使いと一緒に出かけました。

やがて兵士だけが戻ってきました。首相となった純真者は「利口者たちはどこだ。」と尋ねると、兵士は「どうやっていなくなったのか分かりません。」と答えました。

悪魔が利口者たちを捕らえ、泥沼へと連れて行ったのです。そこでは悪魔が泥の玉座に座っており、二人の利口者は泥の中に投げ込まれました。その泥はのりのように厚く粘りつき、二人は身動きひとつできませんでした。

二人は叫びました。「悪党どもめ。 なぜ我々を苦しめるのか。世の中に悪魔なんているもんか。おまえたち悪党が理由もなく我々を苦しめているのだろう。」(この利口者たちはまだ悪魔の存在を信じられず、ただ悪党に苦しめられていると思っていただけでした。)

二人の利口者は厚い泥に沈められながら考えていました。「これは何なのだ。かつて口論したことがあったから、今我々を苦しめているろくでなしどもにちがいない。」こうして二人は何年ものあいだ、そこでつらい苦しみに遭ったのです。

ある時、首相となった純真者が奇跡を起こす人の前を通りかかり、ふと利口者のことを思い出しました。そこで奇跡を起こす人のもとに入り、礼儀通りに頭を下げると、自分がその利口者に会うこと、そして彼を解放してもらうことはできるかと尋ねました。さらに言いました。「悪魔が使いをよこして連れていった利口者を覚えておられますか。あの日以来彼を見ていないのです。」

奇跡を起こす人は「ええ。」と答えました。それで、彼を居場所を教えてくれないものか、そして彼をそこから解放してもらえないものかと頼むと、奇跡を起こす人は言いました。「居場所を教えることも、解放することもできます。ただし私とあなた以外は行ってはいけません。」

二人は一緒に向かい、奇跡を起こす人が所作をなすと、やがてそこへ着きました。すると純真者は二人が厚い泥沼に投げ込まれているのを見ました。利口者は首相を見て叫びました。「兄弟よ、こんな悪党どもが理由もなく私を殴って苦しめているのだ。」

首相は叱りました。「まだ自分の知恵にしがみついているのですか。何も信じないのか。ここにおられるのはあなたが否定していたあの奇跡を起こす人です。この方こそあなたをここから解放し(真実を示し)てくれることができるのです。」

首相となった純真者は二人を解放し、これが人間ではなく悪魔であることを示してほしいと、奇跡を起こす人に頼みました。奇跡を起こす人が所作をなすと、二人は乾いた地の上に立っており、泥は消え失せ、悪さをするこれらの悪霊たちはちりとなりました。

その時、利口者は王の存在をはじめ、これまで否定してきたすべてを認めざるをえませんでした。

PS: つながる

2026-05-08

ブラツラヴのラビ・ナフマンの寓話 利口者と純真者の話 その5

利口者は王から手紙を受け取ると、届けてくれた利口者に答えました。「待ってくれ。ここに泊まってくれ。話をしてから考えよう。」

その晩、彼は使いのために大きな宴を催しました。宴の最中、利口者は自分の知恵と哲学で頭をひねりました。「この王が私のような取るに足らない者のところに使いをよこすとはどういうことなのか。使いをよこしてもらう私とは一体何者なのか。王には権力も栄誉もある。このような偉大で畏れ多い王に比べれば、私などつまらない者だ。その私のところにどうして王が使いをよこすのか。辻褄が合わないではないか。もし私の知恵のゆえだとしても、王に比べれば私は何者だというのか。王には賢者たちがいるだろうし、王自身も大いなる賢者に違いない。その王が私に使いをよこすとは一体どういうことなのか。」こうして彼はとても当惑しました。

この利口者は言いました。「私が何を言おうとしているか分かるだろう。世界には王なんてまったく存在しないと考える方が辻褄が合うのだ。王がいるなんて馬鹿げたことを信じている世界の方が間違っている。考えてみてくれ。世界中の人がみな一人の王に自らを捧げるなんてあり得ないことだ。」

利口者の使いは答えました。「私は王からの手紙を持ってきたではありませんか。」

利口者は尋ねました。「お前は王本人から直接手紙を受け取ったのか。」使いは答えました。「いいえ。王の名義の手紙を別の人から手渡されました。」

利口者は言いました。「私の言うことが正しいのを自分の目で確かめてくれ。王なんて全くいないのだ。」そしてさらに尋ねました。「お前は都の出身で、そこで育ったのだな。生まれてこのかた、王を見たことがあるか。」使いは答えました。「いいえ。」

(まさにその通りで、王はごくまれにしかお顔を見せられず、誰もが拝謁できるというわけではないからです。)

利口者は言いました。「私の言うことが明白で辻褄が合うのが分かるだろう。王が全くいないことは確かだ。お前ですら王を一度も見ていないのだからな。」

利口者の使いはふたたび尋ねました。「もしそうなら、誰が国を治めているのですか。」

利口者は答えました。「このことに詳しい私に尋ねているのだから、はっきり話そう。私はいろいろな国を回り、イタリアにもいたことがある。そこではこういう習わしだ。顧問相が七十人いて、一定期間ずつ国を治める。そしてこの職務を国民皆が交代で果たすのだ。」

彼の言葉は利口者の使いの耳にしみ込み、世界には王などいるはずがないという思いは二人とも揺らぎませんでした。

利口者はさらに言いました。「朝まで待ってくれ。世界に王がいないことを、もっとはっきり説明しよう。」

翌朝、彼は早く起きて使いを起こし、言いました。「私と一緒に外へ行こう。王は全くいないこと、世界が皆まちがっていることをはっきり見せてやろう。」

二人は市場へ行き、兵士を見つけて捕まえました。「誰に仕えているのか。」と尋ねると、「王にです。」と答えました。「これまで王を見たことがあるか。」と尋ねると、「いいえ。」と答えました。利口者は使いに言いました。「見なさい。こんな馬鹿なことってあるか。」

さらに軍の将校のところへ行き、同じように尋ねました。「誰に仕えているのか。」「王にです。」「これまで王を見たことがあるか。」「いいえ。」利口者は使いに言いました。「皆が間違っていることを自分の目で見ただろう。世界には王など全くいないのだ。」

王など全くないという思いは二人とも揺らぎませんでした。利口者はさらに言いました。「世界を旅しよう。世界が皆どう大間違いしているか、もっと見せてあげよう。」

二人は世界を旅に出かけ、どこへ行っても人々の間違いを見つけました。王の話を例えにして、「王がいるということが真実であるのと同じくらいこれも真実だ。」と言うのでした。

彼らは手持ちの物が尽きるまで旅を続けました。最初は馬を一頭、次にもう一頭と売り、ついにはすべて売り払って、徒歩で旅をせねばならなくなりました。つねに世界を研究しては、間違いを見つけるのでした。そしてついには歩き続けるだけの貧乏人となり、かつての地位を完全に失いました。そんな貧乏人に目を向ける者はもう誰もいませんでした。

PS: つながる

2026-05-01

ブラツラヴのラビ・ナフマンの寓話 利口者と純真者の話 その4

この二人の息子は世間では「利口者」と「純真者」と呼ばれていました。

世の中にも利口者や純真者は何人もいました。けれどもこの二人の場合は、とりわけ際立っていたのです。二人は同じ場所に生まれ、一緒に学んだのに、一人は並外れた利口者、もう一人は大変な純真者でした。

住民台帳には皆名字で登録されていました。けれどもこの二人は「利口者」と「純真者」として登録されていたのです。

ある時、王が住民台帳に目を通していると、この二人の息子が「利口者」と「純真者」という名前で登録されているのを見つけました。二人がそのように呼ばれていることを不思議に思い、王はぜひ彼らを見てみたいと思いました。

しかし王は考えました。「突然呼び寄せれば、とても恐れるかもしれない。利口者はまったく答えられなくなるかもしれないし、純真者の方も恐れておかしくなってしまうかもしれない。」そこで王は思案し、一人の利口者をこの利口者のもとへ、一人の純真者をこの純真者のもとへ遣わすことにしました。

ただ問題は都でどうやって純真者を見つけるかでした。都にいるのは、大半が利口者だったからです。国庫担当者がまさに純真者でした。利口者はその利口さと知性のせいで、国庫を横領しかねないので、国庫担当者に任じるのは望ましくなかったからです。

王はその利口者と純真者を呼び、二人の息子のもとへ遣わし、それぞれに宛てた手紙を託しました。また、二人が住む州の知事にも手紙を託しました。そして王は知事宛ての手紙にこう命じました。二人が恐れないよう、知事が直々に二人へ手紙を送ること。どうしてもというのではなく、王が来るように命じるのでもなく、その気になった場合だけ来ればよい。王はただ二人を見たいと思っているだけだ。そう書くようにと。

利口者の使いと純真者の使いは旅に出て、知事のもとに到着しました。手紙を渡すと、知事は二人の息子について尋ねました。すると、利口者はとても賢く、また金持ちであり、純真者はとても純真で、毛皮のコートをあらゆる服の代わりにしていると告げられました。

知事は毛皮のコートのまま王の前に出すのはふさわしくないと考え、ふさわしい服を用意しました。それを純真者の使いの馬車に載せ、さらに王からの手紙を託しました。使いたちは旅を続け、ついに目的地に到着しました。利口者の使いは利口者に、純真者の使いは純真者に手紙を渡しました。

純真者は手紙を受け取ると、届けてくれた使いに言いました。「何が書かれているのか、私には分かりません。私のために読んでください。」すると使いは答えました。「手紙の内容は口頭でお伝えします。王がお呼びなのです。」「冗談ではないですよね。」と純真者がすぐに尋ねると、「冗談ではなく、本当にその通りです。」と答えました。

純真者はすぐに喜びで胸がいっぱいになり、妻のもとに駆けていきました。「おまえさん、王が私をお呼びだ。」妻が「どうして、何のためにですか」と尋ねましたが、彼は答える暇もなく、喜んで飛び出し、使いと共に旅立ちました。馬車に乗って座ると、そこに服がありました。彼はますます嬉しくなりました。

その頃、知事は不正で告発され、王は彼を解任しました。ずる賢さもごまかしもなく、誠実に国を治められるのは純真者だと王は考えました。そこで、自分が使いをやったこの純真者を新しい知事に任命する命令を出しました。

純真者はその州の都を通らねばならなかったので、王は都の門に人を立たせ、彼が通ったらすぐに止めて、知事に任命したことを告げるよう命じました。そして実際にそうなり、門には人が立ち、彼が通るとすぐに呼び止められ、知事に任命されたことを告げられました。

「冗談ではないですよね。」と純真者が尋ねると、「もちろん、全然冗談ではありません。」と答えられました。こうして純真者は権威と力を帯びてすぐに知事となりました。

今や彼の運は上り調子となり、そのおかげで知性も備わりました。理解も少し増しましたが、彼は自分の知性に頼らず、以前と変わらず純真に振る舞いました。そして純真、誠実かつ正直に国を治め、不正は一切ありませんでした。国を収めるには大きな知性も知恵も必要なく、正直さと純真さがあればいいのです。

裁きを求めて二人の人が現れると、ずる賢さもごまかしもなく、純真そのままに言いました。「お前は無罪。お前は有罪。」すべてを真実で治めたので、人々から大いに愛されました。

彼を心から愛する顧問もいました。ある顧問が愛からこう助言しました。「すでに王からお呼びがかかっていますし、知事は王の前に参上することになっています。きっとあなたも呼ばれるでしょう。あなたは誠実で、不正とも無縁であられます。しかし王は知恵や外国語に話が及ぶことがよくあるのです。それに答えられるように備えるのがふさわしいのではないでしょうか。私が知恵や外国語をお教えするのがよろしいかと思いますが。」

純真者はこの提案が気に入りました。知恵や外国語を学ぶのも悪くないと考えました。そしてすぐに思い出しました。かつて利口な友人が「お前が私にかなうはずはない。」と言ったことを。しかし今や彼はすでに知恵で勝っていたのです。

(彼は知恵に通じるようになっていました。けれどもそれを全く使わず、以前と同じく純真さによってすべてを治めました。)

それから王は、純真者である知事を自分のもとへ呼び寄せました。彼はすぐにやって来ました。

王はまず国の運営について話をしました。不正もごまかしも一切なく、正直でとても誠実に治めていることが分かり、王は大いに気に入りました。

それから王は知恵や外国語の話を持ち出しました。純真者はそれにも適切に答えたので、王はさらに気に入りました。「こんなに賢いのに、これほど純真に治めているとは。」

王はますます気に入り、すべての大臣を取り仕切る首相に彼を任命しました。王は彼の居住用に特別な町を与えることを命じ、それにふさわしい、素晴らしく豪華な城壁を築くようにも命じました。

王は純真者が首相となる任命状を渡しました。命じられた通り、その場所には建物が建てられ、純真者は権威を帯びてこの栄誉を受け入れました。

PS: つながる