そうこうしているうちに、利口者が大きな名誉と多くの知恵をひっさげて戻ってきたというので、町は大騒ぎになりました。
純真者も心から喜び、迎えに駆けつけました。妻に「急いで外套を持ってきてくれないか。友を迎えに行ってくるから。」と言い、毛皮のコートを受け取り、急いで出かけました。
利口者は尊大に馬車に乗っていました。純真者は駆け寄り、愛情と喜びを込めて迎えました。「兄弟よ、友よ。ご無事でしたか。神のおかげで、こうしてまた会えましたね。」
けれども利口者の目には、世界そのものがどうでもいいことに見えていました。そんな彼には気狂いじみて見える純真者など、なおさら取るに足らない存在でした。それでも幼い頃に結ばれた深い愛情のために、利口者は彼に親しく接し、二人は一緒に町へ向かいました。
この二人の息子の父親、つまり二人の家主は、利口者が諸国を放浪している間にすでに亡くなっており、残されていたのは家だけでした。元の所に残っていた純真者は自分の父の家に移り住み、受け継ぎました。ところが外国にいた利口者には家を守る者がおらず、家は荒れ放題で、跡形もなくなっていました。戻ってきたものの、利口者には住む家がなく、宿屋に行ってみても気に入らず、そこで苦しみました。
ここで純真者は新しいことを見つけました。自分の家から愛情と喜びをこめて訪れるたびに、利口者が宿屋で苦しんでいるのを見たのです。「兄弟よ、私の家に引っ越して一緒に住みませんか。私の持ち物は一ヶ所にまとめますから、家の残りはすべて好きなようにしてください。」
利口者はこの提案が気に入り、純真者の家に移って一緒に住むことになりました。
利口者はいつも苦しみだらけでした。とても賢く、職人としても、そして素晴らしい医者としても名声を博していたので、ある要人がやって来て、金の指輪を作ってほしいと頼みました。
彼はとても素晴らしい指輪を作り、とても巧みに絵を彫り、さらに木を彫り込んで仕上げました。やがて要人が受け取りに来ましたが、指輪はまったく気に入りませんでした。
彼はとても苦しみました。この木彫りの指輪はスペインならば大いに珍重されることを彼自身よく知っていたからです。
ある時、大切な要人が遠くから取り寄せた宝石と、絵の彫られた宝石を持ってきました。そして取り寄せた宝石の方に同じ絵を彫るよう頼みました。利口者は同じ絵を彫りましたが、彼にしか分からないところで間違えてしまったのです。
要人は宝石を受け取ると、とても気に入りました。けれども利口者は間違いのせいでとても苦しみました。「自分はこんなに賢いのに、今間違いを犯してしまうとは。」と。
医術でも彼は苦しみました。病人を治療する時、自分では「この治療なら絶対に治る。」と確信していました。とても素晴らしい治療だったからです。しかし病人が後で死んでしまうと、世間から「彼のせいで死んだ。」と言われ、彼はとても苦しみました。逆に、治療して病人が治ると、今度は「偶然だ。」と言われ、彼はやはりとても苦しむのでした。
服が必要になった時も同じでした。彼は仕立て屋を呼び、自分の望み通りに仕立てるよう、必死に説明しました。仕立て屋は要領を得て、彼の望み通りに服を仕立てましたが、襟の一つをきちんと揃えないという間違いを犯してしまいました。そのため彼はとても苦しみました。
ここでは誰も気づかないので、服としては立派でした。けれども彼は知っていたのです。スペインでこんな襟をしていたら、滑稽だと思われて笑いものになると。こうして彼はいつも苦しみだらけでした。
純真者が利口者のところへ喜んで駆けて行くたびに、彼が悲しみ、苦しみだらけなのを見るのでした。
「あなたのように賢くて裕福な人はいないのに、どうしていつも苦しんでいるのですか。私はいつも喜びにあふれているというのに。」この言葉は利口者には滑稽に思え、純真者は気狂いにしか見えませんでした。
すると純真者は言いました。「私を馬鹿にしている人たちだって、馬鹿なのです。私より賢いとしても、まずは彼らが馬鹿なのです。あなたのように賢い人なら、なおさらです。私より賢いからといって、それが何だというのですか。」
さらに純真者は声を上げました。「あなたが私と同じ純真さのレベルに達することができればいいのですがね。」
利口者は答えました。「私はあなたのレベルに達することもできるかもしれない。だがそうなったら、とんでもないことに、知性を失うか、病気になるかして、気狂いになるだろう。あなたは一体何者なのか。気狂いではないか。あなたが私のレベルに達して、私のように賢くなるなんて、絶対にありえない。」
純真者は答えました。「神にかかれば、すべては可能です。またたく間に、私はあなたのレベルに達するかもしれませんよ。」
すると、利口者は彼を笑いものにしました。