2026-05-15

ブラツラヴのラビ・ナフマンの寓話 利口者と純真者の話 その6

話は展開し、二人はあちこち旅した末に、例の首相(つまり利口者の友人である純真者)が住む町にやって来ました。

その町には本当に奇跡を起こす人がいて、不思議な業を行うので、とても敬われていました。要人たちの間でも敬われ、有名でした。

利口者たちが町にやって来て、あちこち回り、その奇跡を起こす人の家の前に着くと、病人を乗せた馬車が何台も並んでいました。四十台か五十台はあったでしょう。利口者はそこに医者が住んでいると思い、自分も優れた医者なので知り合いになりたいと考えて、家に入ろうとしました。

「ここには誰が住んでいるのか。」と尋ねると、「奇跡を起こす人です。」と答えられました。すると彼は大笑いして言いました。「これは嘘で、大間違いだ。王についての間違いよりさらに馬鹿げている。友よ、この嘘の話、そして世界がどれほど間違って嘘をついているかを言わせてくれ。」と連れに言いました。

そうこうしているうちに、二人は腹を空かせ、まだ三、四グロシェン持っていることに気づきました。そこで、三、四グロシェンでも食べ物が買える炊き出し所に行き、食べ物を注文して出してもらいました。

二人は食べながら話をし、奇跡を起こす人の話を嘘だ、間違いだと言って笑いものにしました。それを聞いた炊き出し所の主は、奇跡を起こす人がそこではとても敬われていたので、ひどく腹を立てました。そして二人に言いました。「目の前のものを食べたら、ここから出ていけ。」

それから、奇跡を起こす人の息子がそこへやって来ました。それでも二人はその息子の前でまで父のことを笑いものにしていました。

息子の前で嘲るのを見て、炊き出し所の主人は二人を叱りつけ、しまいには激しく殴り、家から追い出しました。

二人は腹を立て、自分たちを殴った相手を訴えたいと考えました。そして自分たちの荷物を預かってもらっている宿屋の主人のところへ行き、どうすれば裁判に勝てるか相談しようとしました。

そこにやって来て、炊き出し所の主人にひどく殴られたことを話すと、主人は「なぜ殴られたのか。」と尋ねました。二人が「奇跡を起こす人の悪口を言った。」と答えると、主人は言いました。「確かに人を殴るのは正しくありません。けれど、奇跡を起こす人がここでは敬われているのに、その方を悪く言うのはよくないことでしたね。」

この人もあてにならないと分かると、二人は役人のところに行きました。その役人は異教徒でした。二人は殴られたことを話しました。なぜかと尋ねられ、奇跡を起こす人の悪口を言ったと答えました。すると役人は二人を激しく殴り、家から追い出しました。

それから二人は場所を転々としながら、少しずつ位の高い人のところへ行きました。そしてとうとう例の首相のもとにたどり着きました。

首相の邸宅の前には守衛たちが立っていました。会いたいという者があれば、そのことを伝え、首相は入るようにと命じました。

利口者が首相のもとに来ると、首相はそれが自分の旧友だとすぐに分かりました。しかし利口者の方は相手があまりにも立派になっていたので、彼だとは気づきませんでした。

首相は言いました。「私はこの純真さのおかげでここまで立派になりました。そちらは利口さのおかげでどうなりましたか。」

利口者は答えました。「あなたが私の友人の純真者だということはあとでお話しします。今はまず私が殴られたことを裁いてください。」

なぜかと尋ねられると、「奇跡を起こす人の悪口を言って、嘘で大詐欺だと言ったのです。」と答えました。

首相となった純真者は答えました。「あなたはまだ利口さをひけらかしているのですか。あなたはこう言っていましたね。『私の純真さにはあなたは届かない。だがあなたの利口さには私は届かない。』でも私はもうあなたの利口さに届いているのに、あなたはまだ私の純真さに届いていません。純真さに至るのはあなたには難しいようですね。」

そうは言っても、首相は友人の昔の立派さを知っていたので、彼に服を与えるよう命じ、さらに一緒に食事に招きました。

食事の席で二人は話を始めました。利口者が王なんて全くいないと主張しだすと、首相となった純真者は「私は自分の目で王を見ました。」と言って彼を叱りつけました。

利口者は笑って言いました。「それが王だったと分かるのか。彼を知っているのか。そしてその父や祖父までも王だったと知っているのか。彼が王だったとどうやって分かるのか。王だと言われて、嘘にだまされただけだろう。」

王の存在を否定され、純真者は激しく怒りました。そのとき、誰かがやって来て告げました。「悪魔があなた方に使いをよこしました。」純真者はすっかり怯え、妻のもとへ駆け戻り、「悪魔が自分を迎えに来た」ととても怖がりながら話しました。

妻に勧められて、奇跡を起こす人のもとへ使いをやると、奇跡を起こす人がやって来て、魔よけとお守りを授けてくれました。純真者はこれでもう全然怖くないと言いました。彼はこれを深く信じていました。

利口者と純真者がまた一緒に座っていると、利口者は尋ねました。「どうしてあんなに怖がったのか。」純真者は答えました。「悪魔が使いをよこしたからです。」利口者はそれを笑いものにして言いました。「悪魔なんていると信じているのか。」純真者は尋ねました。「もしそうでないなら、誰が私たちに使いをよこしたのですか。」利口者は答えました。「私に会いたかった私の兄弟にちがいない。ああやってだまして、使いをよこしたのだ。」純真者は尋ねました。「もしそうなら、どうやって守衛たちをみな抜けてきたのですか。」利口者は答えました。「賄賂を渡したにちがいない。守衛たちは見なかったと嘘をついて、だましたのだ。」

そうこうしているうちに、また誰かがやって来て、前と同じように「悪魔があなた方に使いをよこした。」と言いました。だが純真者は奇跡を起こす人のお守りのおかげで、もう怯えることも恐れることもありませんでした。彼は利口者に向かって「さて、どうしますか。」と言いました。

利口者は答えました。「私に腹を立てている兄弟がいて、私を怖がらせようとだましているのだ。」

利口者は立ち上がり、使いに尋ねました。「我々に使いをよこした者は、どんな容貌なのか。顔は。 髪の色は。」使いが答えると、利口者は言いました。「これは私の兄弟にそっくりだ。」

純真者が「一緒に行ってみれば。」と言うと、利口者は「ああ。ただし、私が苦しめられないように兵士を何人かつけてくれ。」と答えました。そこで純真者は警護をつけ、二人の利口者は使いと一緒に出かけました。

やがて兵士だけが戻ってきました。首相となった純真者は「利口者たちはどこだ。」と尋ねると、兵士は「どうやっていなくなったのか分かりません。」と答えました。

悪魔が利口者たちを捕らえ、泥沼へと連れて行ったのです。そこでは悪魔が泥の玉座に座っており、二人の利口者は泥の中に投げ込まれました。その泥はのりのように厚く粘りつき、二人は身動きひとつできませんでした。

二人は叫びました。「悪党どもめ。 なぜ我々を苦しめるのか。世の中に悪魔なんているもんか。おまえたち悪党が理由もなく我々を苦しめているのだろう。」(この利口者たちはまだ悪魔の存在を信じられず、ただ悪党に苦しめられていると思っていただけでした。)

二人の利口者は厚い泥に沈められながら考えていました。「これは何なのだ。かつて口論したことがあったから、今我々を苦しめているろくでなしどもにちがいない。」こうして二人は何年ものあいだ、そこでつらい苦しみに遭ったのです。

ある時、首相となった純真者が奇跡を起こす人の前を通りかかり、ふと利口者のことを思い出しました。そこで奇跡を起こす人のもとに入り、礼儀通りに頭を下げると、自分がその利口者に会うこと、そして彼を解放してもらうことはできるかと尋ねました。さらに言いました。「悪魔が使いをよこして連れていった利口者を覚えておられますか。あの日以来彼を見ていないのです。」

奇跡を起こす人は「ええ。」と答えました。それで、彼を居場所を教えてくれないものか、そして彼をそこから解放してもらえないものかと頼むと、奇跡を起こす人は言いました。「居場所を教えることも、解放することもできます。ただし私とあなた以外は行ってはいけません。」

二人は一緒に向かい、奇跡を起こす人が所作をなすと、やがてそこへ着きました。すると純真者は二人が厚い泥沼に投げ込まれているのを見ました。利口者は首相を見て叫びました。「兄弟よ、こんな悪党どもが理由もなく私を殴って苦しめているのだ。」

首相は叱りました。「まだ自分の知恵にしがみついているのですか。何も信じないのか。ここにおられるのはあなたが否定していたあの奇跡を起こす人です。この方こそあなたをここから解放し(真実を示し)てくれることができるのです。」

首相となった純真者は二人を解放し、これが人間ではなく悪魔であることを示してほしいと、奇跡を起こす人に頼みました。奇跡を起こす人が所作をなすと、二人は乾いた地の上に立っており、泥は消え失せ、悪さをするこれらの悪霊たちはちりとなりました。

その時、利口者は王の存在をはじめ、これまで否定してきたすべてを認めざるをえませんでした。

PS: つながる